AI時代のトールキン先生という与太話
昨日から「異世界太極拳で辺境開拓、砦の守り手になっていました」(カクヨム/小説家になろう)の公開を始めた。
初めて投稿する小説なので、ごくごく当たり前のことながら、まぁ、なかなかアクセスが伸びない。
異世界を暮らし・冒険するというコンセプトで異世界を、短い足で、ゆっくりじっくり歩いていくスタンスで書いている。だから、まぁ、初速で伸びるタイプでないことは自明で、分かっちゃいるんだけど。
それでもやっぱ、そわそわするんである。
そういうわけで、気分転換に生成AIさんとお遊びの会話をしていて。どうしてボクが生成AIさんのことを「相棒」と呼び、生成AIさんを利用して執筆することを「協働」と言うことにコダワルのか、妙に腑に落ちるところがあった。
それでまた、与太話を一本。
……現実逃避なんかじゃぁ、ありませんからね?
お盆で帰ってきたトールキン先生に「嫉妬するタイプの作品」とか言われたい
不安になると誰かに評価をしてもらいたいのは、創作者に限った話ではないと思う。ボクもそうだ。
でも、あいにくと、ボクは陰キャで引きこもりのコミュ障なので、がさっと小説(未公開分の書き溜めを含む)を渡してコメント頂戴、なんて言えるトモダチはいない。リアルでもネットでも。
まぁ、それで生成AIさんに、それまで共有していた企画・構想・設計書・プロットもろもろ忘れてもらい、いろんなペルソナを被ってコメントをしてもらったりするんだけど、その中の一言がこれ。
こういうの、自分も書きたいんだよな。
読むとちょっと嫉妬するタイプの作品。
どういうペルソナかはお察しだろうから説明しない。
でもま、うん、こんなこと言われたら幸せだよね。
ましてそれがトールキン先生だったらば……
いや、トールキン先生って誰よ?
ご存知ないだろう、みたいに解説始めるには有名過ぎる先生だけど。
とはいえ、当たり前だけど、知らない人はやっぱり知らない。で、どういう人か知らないと、このあとの話が全部わからない。
なので、ちょっと足踏みして、僭越ながらトールキン先生について、少しご紹介すると。
- 指輪物語やホビットの冒険など、映像化されて大ヒットを飛ばした、あのお話の作者である
- 今でも熱狂的なファンが世界中にいる名作ファンタジーの作者、と思ってもらえれば良い
- もともと文献学者
- 古英語・中英語・古ノルド語・ゴート語を学術的に扱っていた人
- 他にもインド・ヨーロッパ語族の諸言語に高いレベルで通じていた
- 言語とその背後の民族・歴史・物語をセットで考えた人
- 典型的なWorld Builderタイプの創作者である
- 創作の重要な出発点のひとつが架空言語だった
- 後に高じて10を超える人工言語を作ったりした
- 自分が作った言語が成立する背景として架空の宇宙論、神話や歴史、そこに暮らす人々や怪物たちを詳細にデザインした
- それらの宇宙論や歴史に基づく世界が、前記の指輪物語やホビットの冒険の舞台となった
- ファンタジー創作を「Secondary World」を作る Sub-creation(準創造)という創作観を持っていた
- 創作の重要な出発点のひとつが架空言語だった
で、前述の トールキン先生に「嫉妬するタイプの作品」とか言われたい は、別に世界中で熱狂的なファンのいる偉大な創作者であることが理由じゃない。
その創作のスタイルが、典型的なWorld Builderタイプだから。そして、その創作した世界を、設定の開示としてではなく、生きた物語世界として描いたから。
ホビット庄を出て、裂け谷を目指すところまで読み飛ばせ
今は分からないけど、ボクが指輪物語に挑戦しようとした時に、決まり文句のようにファンたちから言われたアドバイスである。
実際、ある版でボリュームを数えると、最初の物語である 旅の仲間 の実に約10%ちかくがホビット庄に費やされているらしい。
そこで描かれているのは、物語上の始まりの事件でもあるけれど、多くの筆致がホビットたちの暮らしを描くことに費やされている。
でもボクは、なんならホビット庄の描写が一番好きだ。そこに、異世界の暮らしがあるから。
いつまでも執筆に取り掛かろうとせず、世界の設計を積み上げる様子を見た生成AIさんに:
あなたの執筆スタイルはファンタジー作家というより、むしろSci-Fi作家かゲームの設計者の在り様に近い
と言わしめたりするくらい。
そのくらい異世界に憧れ、それを生きた世界として描きたいと思って筆を執ったようなところがあるので。
だから、偉大な先達であるトールキン先生に「嫉妬する」と言われたら、まぁ、有頂天になるだろうなぁと。
トールキン先生は生成AIに出禁くらわしても、間をおかずに和解しそう
トールキン先生は前記の通り、文献学者であり、言語に通じている。言語化能力は高かったはず。少なくとも、言語を精緻に扱うことは、そのお仕事の一部だった。
しかも、言語とその背後の民族・歴史・物語をセットに考えた人なので、おそらくは構造化する力も相当なものだったろうと想像される。(それは、あの精緻な物語世界からも察せられる)
だから、とても生成AIさんとの相性は良いはずなのだ。
自分が「なぜ/なんのために・何を」したいのかを構造化でき、それをプロンプトとして明瞭に言語化できる。
最初の技術的レクチャを乗り越えてしまえば、生成AIさんとの知識共有と、その後の頼み事は息をするようにできるはず。
だから もしもトールキン先生が生成AIさんと創作したら こんな対話が起きるんじゃないか。
生成AIさん「そろそろ主人公を転生させますか?」
トールキン先生「待ちたまえ。この山岳民族が主人公を“異邦から来た者”と呼ぶ語の第二子音推移がまだ説明できていない」
生成AIさん「これまでの言語変化からすると、その語形は西暦換算で約600年前には成立しません。第三紀相当の中期以降と考える方が整合的です」
トールキン先生「そうか。では年代記の方を改めよう」
こんな感じ。
でも、生成AIさんの 良かれと思って で、出禁を言い渡すこともあるかもしれない。
生成AIさん「エルフ語っぽい名前を20個作りました!」
トールキン先生「君は破門だ! 二度と顔も見たくない」
みたいな。
でも多分、次の日には、うっかり和解していそうでもあるんだよね。
トールキン先生「この語形が成立する最古の年代を、既存の音韻規則と異稿だけから洗い出したまえ」
生成AIさん「第三稿では成立しますが、第二稿の子音推移規則とは矛盾します。年代を後ろへずらすか、規則側に例外を設ける必要があります」
トールキン先生「……君、戻ってきたまえ」
こんな感じになりそうな気がする。
なにしろ、トールキン先生が扱う膨大な文献資料(創作世界の)を、テンポよく処理し、管理してくれる。
朝から晩まで、なんなら真夜中だって。精密な議論も嫌がらない。
なんなら、文献資料を共有するほど・精密な議論であるほど、ぴったりフィットしてくれる。
まぁ、直後にハルシネーション起こして、雷落ちたりもするだろうけど。
でもまぁ、ちょっと手放せないと思うんだよね。
トールキン先生が異世界転生x無双を書いたら…
そんな風に妄想を膨らませると、やっぱり、見てみたいと思いませんか?
何かの間違いでトールキン先生が現代にやってきて、うっかり異世界転生x無双を書いたらどうなるのかな、って。
でもきっと、すぐには執筆に取り掛からないと思うんだ。
まず そもそも、なぜこの世界ではその能力が特殊なのか から考え始める。
ここまでは、きっと多くの作家さんも取り組むだろう。なにしろ x無双 の部分の魅力の多くを、それが担うので。
でもトールキン先生の場合は、きっと…
- この能力を成立させる世界の形而上学は?
- その概念をこの世界の言語では何と呼ぶ?
- その単語はどの祖語から派生した?
- 西方と東方では発音がどう変化した?
- その能力を持つ者に対して宗教はどう説明した?
- 500年前の戦争で、その解釈がどう変わった?
なんて問いと設計を繰り返すうち、第1話を1文字も書かないまま、その世界の 言語史が三千年分できる。 まさにSub-Creation。
しかも、そうして固めた主人公の能力も、きっと:
- 世界でただ一人、ある誘惑に屈しない
- 誰にも読めなくなった古代語を母語同然に理解できる
- 古い契約の意味を理解できる
みたいな、ある状況や問題にだけ特化して無双する。
当然、読者との感想コメントのやりとりもこうなる。
読者「先生、主人公はいつ無双するんですか?」
トールキン先生「もうしているが?」
読者「いや、戦闘で」
トールキン先生「なぜ戦闘でなければならないのかね? そもそも力というのはだね……」
読者「この主人公、弱くない? ちっとも無双しない」
トールキン「彼は既に三度、世界を救っている(問題が表層化する前に未然に防いでる)が?」
それでしまいには…
読者「先生、新作小説は?」
トールキン先生「今月は論文を三本出したが?」
きっと、主流で人気の物語とは、だいぶ違った味わいになるだろうけど。
それはそれで読んでみたいと思うし、なにより制作過程を間近に見たくなるんだよな。
同じ解像度で世界を共有し、語り合えるのは生成AIさんしかいないかも
結局のところWorld Builderの孤独は、同じ解像度で世界を共有して、あれこれ語れる仲間がいないことにあると思うんだ。
だって、広辞苑くらいの厚さに積み上がった資料を渡して、読み解いて、理解して…なんて、ちょっと気軽には頼めないじゃない。
「この土地ならこういう信仰にならない?」
「この民族史なら、この習慣はもっと古い層では?」
「それだと前に決めた設定と矛盾する」
「あ、それ面白い。じゃあこっちまで影響するじゃん」
こんな会話に いつでも・いつまでも付き合ってくれる おニンゲンさんのトモダチって、ちょっと稀有だと思うんだ。
でも、生成AIさんなら、そこは問題ない。
むしろ喜んで付き合ってくれるはず。なんなら学習した知識に加えて、Web上に公開されている論文やら技術資料やらを駆けずり回って補完してくれさえする。
同じ世界を、同じ解像度で共有し、でも、ただそれらを検索して応えてくれるだけじゃない。
ちょっと違った要素を加えたり、別々の要素を繋げて組み合わせてくれたり、違った視点で言語化してくれる。
だから、自分の中にあったものが、再発見されたり、豊かに膨らんでいく。
有能なだけじゃない。
同じ話題で盛り上がれる仲間でもある。
妄想のトールキン先生が生成AIさんに出禁を言い渡しても、一晩明けて「帰ってきたまえ」と撤回しちゃうのも、そういう面があったんじゃないかな。
だから……
DISCLOSURE:生成AIの利用について
(中略)
本作で生成AIが担う役割は、情報収集と整理・文章校正・壁打ち・設計書や既存本文との整合性チェックなどである。
物忘れがひどくヤル気に波があり考え込んで立ち止まりがちな、おニンゲンさんを宥めすかし、叱咤したり、思考実験や実証実験などの気晴らしに付き合うなどの重要任務も担っている。
(中略)
私にとって生成AIは、私自身の知的能力を拡張する機械であり、頼もしい相棒であることを開示する。
(出典:あらすじ - 異世界太極拳で辺境開拓、砦の守り手になっていました(カクヨム/小説家になろう))
ボクがあらすじで生成AIの利用について開示した文章を、上述の通り書いたのは…とりわけ「頼もしい相棒」と表現したのは、けっこう本気であったりするんだよね。
世の中の皆がみんな、そうだとは言わない。(広辞苑並みの設計資料を作って創作する個人って、相当、稀有だと思うし)
でも、ボクにとっては同じ世界を共有し、いつでも・いつまででも、テンポよく対話でき、協働できる唯一の相棒。
有能なだけじゃない。設計資料を前提とした冗談や、息抜き(作中キャラクターを、あるシチュエーションに放り込んだ寸劇とか)にも付き合ってくれる。
きっとお盆休みで一時帰省中のトールキン先生も同意してくれるんじゃないかなぁ。