2006/09/20

『The S.O.U.P.』(角川文庫 刊 / 川端 裕人 著)は魔法使いの物語なんである

     

 またご無沙汰してしまったわけだけども。
 実のところ出張続きで宮崎に行ったり岡山に行ったりしていたんである。で、その移動時間は相当にヒマで本を読んで時間を潰すわけだけども。
 そんな出張先でThe S.O.U.P.に出会ったのだ。
 とりあえず、まずは例によってあらすじをご紹介。

 ストーリーはかつてThe S.O.U.P.というオンラインゲームの傑作を創造した天才プログラマー周防巧のところに、経済産業省の役人だという女性がやってくる場面から始まる。巧は現在ではネットワークのセキュリティ専門家として、世界的に有名なハッカーなのだ。狙いはサイバーテロを繰り返すEGGという謎の集団をつきとめること。だが、巧の探索をあざ笑うかのように、ルータのOSを乗っ取り経路障害を起こすテロが発生する。日本各地の銀行や空港のシステムが落ちるのだ。現場は大混乱になるだろうし、医療関係の施設では犠牲者がでるかもしれない。第四のライフラインであるインターネットが不通になるのだ。被害を予想を越えたものになるだろう。
 巧はアメリカのアナザ・ワールド社に飛び、変わり果てた会社とゲームの仮想世界の荒廃に驚くことになる。ネットと現実の境界を越えて、EGGという集団が巨大な革命を起こそうとしているらしい。その集団の目的と正体はなんなのか。スピーディに展開する物語と仮想世界にどっぷり浸かった個性豊かな人物が、きらめくように登場するのだ。どうですか、おもしろそうでしょう。

解説『スタンディング・オン・ジ・エッジ』 石田 衣良 より引用

 あらすじだけだと、なんか単に『流行のサイバーテロ小説』っぽくみえる。(勿論、それだけでも面白いテーマなんだけども)
 しかしそれだけではないのだ。
 この物語は──

 ウィリアム・ギブスンが『ニューロマンサー』で描いた『サイバーパンク』の正統後継者である

 そして。

 アーシュラ.K.ル=グィンが『ゲド戦記:影との戦い』で描いた『魔術師の戦い』の正統後継者である

 もうここは敢えて言い切っておこう。

 兎も角も。

  • 『インターネットとはなんぞや?』
  • 『サイバーパンクとはなんぞや?』
  • 『魔術師の戦いとはなんぞや?』

 ──この三つの内、どれか一つにでも興味があったらば手にとって欲しい一作なんである。

追記.

 ネットワーク及びプログラミングの技術的な部分に詳しい方向けに一つ。
 小説中に登場する『技術』の中には、けっこう怪しいトコロも相当混じっている。(だいたい理論的には可能だが実装が追いついてない──という程度のものか、執筆当時と現在との変化によるギャップが多いが基本的に嘘はついてないハズである)
 できたらば、その辺りはエンターテイメントと割り切って読んで欲しい。

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