2009/01/20

誰にとっての悪を問うのか? - ある無人島漂流の物語

 今回もタケルンバ卿からお題を一つ。

今回のオフ巡りで聞いた話を早速。ある方が今年の4月からお勤めをはじめる。で、その研修のときにグループディスカッションがあり、こんな話が出たそうだ。

ある夫婦、その妻に思いを寄せる男性、この3人とは何の関係もない男性、おじいさん。この5人が乗っていた船が難破し、無人島に流された。
その過程で、夫婦の夫は行方不明となり、島に流れ着いたのは4人だった。この時点で夫の安否はわからない。
夫の安否を確かめるには、船を出して捜索するしかないが、妻には船をつくる能力や、直す力はない。船をつくり、直すことができるのは、夫婦とは縁もゆかりもない男性ただひとりだった。
妻はその男性に頼んだ。「船を直してください。夫を探したいのです」と。
男性は直すと言った。だが、条件をつけた。その条件とは妻と一夜限りの関係を持つこと。
妻は悩み、おじいさんに相談した。おじいさんは「気持ちのままに行動しなさい」と。
妻は結局、その男性と関係を持った。男性は約束を守り、船を直した。
そして船が直り、これからまさに夫を探すというときに、夫が無人島に自力でたどり着いた。
妻は夫に、捜索するため、船を直すために男性と関係を持ってしまったことを告白した。
夫はそんな妻を許さなかった。不貞であると。
夫婦は破局した。
ひとりになった妻の様子を見て、思いを寄せていた男が言った。「あなたが好きです」。

悪いのは誰? - ある無人島漂流の物語 - タケルンバ卿日記

 この状況設定で『登場した5人の人物(夫, 妻, 妻に思いを寄せていた男, 船を直した男, おじいさん)の中で最も悪い人は誰だと思いますか? 許せない順番をつけるとしたら?』という問いかけに対して、答えてみようという趣向。とある企業の研修での、グループディスカッションのお題だったんだそうな。

 ちなみに、そのディスカッションでは女性陣は「相手の弱みに付け込んで『妻』に関係を迫った『船を直した男』は許せない」と主張したものの、男性陣から「『船を直した男』は『妻』との合意の上できちんと契約を果たした」から悪くないということでロジックと数の力で押し切られたんだそうな。(じゃぁ、男性陣はどう主張したのか? ってのが気になるところではあるけれど元記事では触れられていない, ちと残念)
 また、はてな貴族のタケルンバ卿は「なんのリスクも負わず、役割も果たしていない『おじいさん』が悪い」と結論している。

 さてはて。
 確かに夫を思っての事とはいえ結果的に夫を裏切った『妻』, それを許さなかった狭量な『夫』, 漁父の利を決め込んだ『妻に思いを寄せていた男』, 弱みに付け込んだ『船を直した男』, 当たり障りなく物の分かったようなコトを言ってリスクを回避した『おじいさん』ーーそれぞれ、もっともらしく悪者にできる気がする。
 なるほどグループディスカッションのネタにはピッタリだ——と一見すると思える。

 思えるのだけど。
 でも、冷静に考え直してみよう。出題者が問うているのは誰にとっての『悪』なんだ?

 戦争を例にとるまでもなく『正義』と『悪』の間に明確な境界線なんかない。立ち位置を帰ればコロコロと裏返る。『絶対悪』なんてものは宗教か、タチの悪いアジテーションの中にしか存在しないし、してはならない。
 だから『悪』を問うならば、必ず『誰にとっての悪』なのかが明らかでなければならない。ところが、この設問にはそれが明示されていない。

 明示されていないということは、この物語を聞いたボク自身にとっての『悪』を問うているのだろう。他の誰でもない、ボク自身にとっての『悪』というわけだ。
 それに対するボクの答えはこうだ。

「別に誰も悪くないでしょ? それぞれ自分の置かれてる立場で自分にとってベストと思える答えを出してるんだろうし。明らかに法を犯している様子もないし。だいたい、ボクは何一つ不利益を受けてないし

 冷めた答えで申し訳ない。でもボクは大して知らない見知らぬ誰かのためにアイツは悪いの悪くないのと熱く語れるタチじゃないみたい。
 例えば物語の中の『誰か』の立場になってみて、と問われたらまた違った答えがあるんだろうけどさ。

さてはて、あなたはこの問いにどう答えるだろうか?

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