2009/04/01

クラウド普及のカギがブラウザ? そんなのナンセンスだよ。

最近、IT系の界隈で何かと耳にするキーワード、クラウド。

知ってる人はすでに耳にタコで今更かもしれないけれど、たぶん、知らない人は「で、なんなのソレ?」というシロモノでだろう。

クチの悪い人はバズワード(いわゆるマーケティング用語, モノを売りつけるときに大変けっこうな売り文句)に過ぎないと言ったりするし、ここ数ヶ月のIT雑誌での取り上げられ方や書籍の出そろい方を見ていると、そうかもしれないと思わされることもある。

でもですよ。これはないと思うんだよな。

クラウドコンピューティングがどれくらい使えるようになるかは、クラウド、すなわち Google や Amazon といったサーバー側よりも、ブラウザーというクライアント側で決まるのではないか。結局のところ、クラウド(雲)がいかに暑くたれ込めても、それが慈雨になるためにはブラウザーを通すしかないのだから。

404 Blog Not Found:書評に代えて - クラウドとブラウザーの関係より引用

他の誰ならぬ、小飼弾氏に言われてしまって、ちょっと膝の力が抜けてしまった。

このあたりの記述は、明らかに『クラウド=ブラウザをUIにするもの』という図式を描いている。でも、クラウドの本質はそんな所になんか、ない。確かに、クラウドの嚆矢は、ブラウザを取ってボクたちのところにやってきたのだけど。例えば、オフィスソフトやWebメールなどのカタチをして。

じゃぁ、クラウドの本質とは何か? それは、今までにない大規模な集約と連携だ。

CPU, メモリ, ストーレジなどのコンピューティングリソースが、電力のようにユーティリティ化すること, 巨大なデータベースが相互に連結することにより想像もつかない規模での情報空間が出現し、それを操るアプリケーションが低コストで手に入るところにある。

それは 梅田望夫がWeb進化論でGoogleを評して言ったコトバを借りれば、新時代のコンピュータメーカー情報発電所からボクたちにデータとアプリケーションを供給する世界だ。

たまたま今は、アプリケーションのUIのプラットフォーム(先に引用した記事での表現に合わせればVのプラットフォーム)としてブラウザが使われることが多いかもしれない。

でもDropBoxZumoDriveなどのクラウドストレージと呼ばれる分野ではブラウザは管理ツールに過ぎないし、写真によるライフストリーミングを狙ったBigCanvas PhotoShareなどはiPhone Appが主のUIで、ブラウザ向けのインターフェイスはほぼ参照専用の添え物に過ぎない。Twitterがこれほど爆発的に普及した要因も、その一つはUIがブラウザに固定されず、ケータイ電話のアプリケーションなどのカタチでデバイスを選ばず利用できたからだ。

他にも、Adobe AIRやSunのJavaFX, MicrosoftのSilverLight/MoonLightなどなど、UIのプラットフォームは多様化し続けていて、競争は激化の気配を見せている。

クラウドを利用するデバイスもパソコンばかりではない。ケータイは言うに及ばず、おそらくこれからは家電との連携がアタリマエになる。

従って、クラウド普及のカギはブラウザにはない。少なくとも、この点に関しては小飼弾の指摘は的を外しているとボクは見る。

では、カギはどこにあるか? それはインターネットの接続性である。

発電所から送られる電力は電力網を通ってやってくる。少なくとも先進国において、それはほぼ整備されきっていて、ボクたちは実質的にいつでも、どこでも電力を使うことができる。使っている。

クラウドの情報発電所からは、データやアプリケーションはインターネットを通ってやってくる。でも残念ながら、その整備は電力網に及ばず、iPhoneやケータイのような無線を使うデバイスですら新幹線の中や地下鉄, ちょっと奥まったビルの中など実に様々な場所でインターネットから切り離されてしまう。あるいは帯域が狭すぎて実質的には実用に耐えない。結果、クラウドからデータやアプリケーションを受け取ることができない。

これに対する一つの解は、Google Gearsなどのキャッシュの機構だろう。でも、まだまだ十分とは言えない。まだ未成熟で標準化されてない点を差し引いても、長時間の使用には耐えられない。

それにコストの問題もある。発電所から電力を受け取るためのコスト(いわゆる電気使用料の基本料金)は十分に安い。それに比べてインターネットへ、いつでもどこでも接続できる環境を手に入れるコストは高い、高すぎる。

だから、クラウドの普及のカギは、これからインターネットへの接続がどれだけアタリマエになるか, いつでもどこでも低コストに接続できる環境がどれだけ整うかに掛かっている。ボクはそう思う次第なんである。

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